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徒歩1,000キロの旅:ロビンが見たみちのく潮風トレイル

徒歩1,000キロの旅:ロビンが見たみちのく潮風トレイル

東日本大震災から10年。力強い復興を遂げた東北地方に、知る人ぞ知る珠玉のハイキングトレイルがあるのをご存知でしょうか。ロビン・ルイスは、太平洋沿岸に1,025kmにわたって続く「みちのく潮風トレイル」を二度も踏破しています。本記事では、ロビンがこの恵み豊かなロングトレイルの魅力をご紹介します。
(※この記事は英文記事を翻訳してご紹介しています)

開けた海岸でひと休み (写真:ロビン・ルイス)

豪雨の中、峠道をほぼ4時間歩きつづけてようやく閑散とした村にたどり着いた私は、小さな薄暗い店の前にいました。全身ずぶ濡れで、この旅に出たことを後悔しはじめていました。できるだけ水気を払ってから店内に入り、一歩踏み出すたびに靴からピチョピチョ音をさせつつ、私は遠慮がちにお弁当を買い求めようとしました。

その十分後、私は濡れた衣類をストーブで乾かしてもらいながら、こたつに足を入れて、熱いお茶をすすり、温かいラーメンでお腹を満たしていました。身体を温めながら天候が回復するのを待つようにと(強く)勧める店主のチバさんに従い、店とつながっている自宅に上がらせてもらったのでした。

チバ家の皆さんと歓談しているうちに、時間はあっという間に過ぎていきました。(チバ家の83歳の屈強なおじいさんは、元プロボクサーで卓球に熱中しているそうです。)数時間後、元気を取り戻して笑顔で春の日差しのもとに現れた私は、待ち受ける長い旅路を歩き抜く心の準備ができていました。

日本で一番新しい長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」には、見事な景色や極上の魚介類などさまざまな魅力があります。でも、トレイルの旅を本当に大切な思い出にしてくれるのは、このような予想外の出会いなのです。

52日間で全行程を踏破

52日間で全行程を踏破

青森県の種差海岸 (写真:ロビン・ルイス)

私は2017年から東北地方のみちのく潮風トレイルのさまざまな区間を歩いてきました。つい最近では、52日間かけてのスルーハイク(全行程を通して歩くこと)も達成しました。足の痛みはまだ記憶に新しいものの、再びこのトレイルを歩くのをすでに心待ちにしています。

みちのく潮風トレイルは、三陸の海岸線沿いに広がる起伏に富んだ田園地域や数々の小さな漁村、断崖絶壁が連なる三陸復興国立公園を通る、総延長1,025キロメートルの自然歩道です。最南端の福島県相馬市から、訪日旅行の穴場である宮城県と岩手県の湾や入江をいくつも経由して、最北端の青森県八戸市まで続いています。

このトレイルは単なるハイキングコースではありません。みちのく潮風トレイルは、地域の人々の思いが込められたかけがえの無い道なのです。

希望と再生の象徴

希望と再生の象徴

2011年3月11日の津波で壊滅的な被害を受けた荒浜小学校の教室(写真:ロビン・ルイス)

2011年3月11日、日本は今世紀最大級の被害をもたらした東日本大震災に襲われました。巨大地震とそれに伴う津波により、約2万人の命が奪われ、東北沿岸部の何十もの町が壊滅的な被害を受けました。それから10年以上経った現在、被災地域は復興に向けて歩み続けており、国内外からの旅行者を歓迎しています。

みちのく潮風トレイルと三陸復興国立公園の整備事業は、その豊かな自然景観や文化、地域社会を国内外に紹介することでこの地域の長期的な復興を支援する取り組みとして、環境省の主導で進められました。2019年6月に正式に全線開通したこのトレイルは、それを歩く人々が途中にある数多くの震災遺構や記念碑を通じて東日本大震災の被害について学び、喪失・回復・再生の物語に直接触れることができる重要な希望の象徴でもあります。

猫島として知られる宮城県の田代島(写真:ロビン・ルイス)

風景の美しさもさることながら、東北は歴史や神話、民話にあふれる地です。愛らしい方言、古い言い伝えや風習など、東北にはどこか独特の魅力があります。この地方を旅する外国人旅行者は比較的少ないため、定番の観光地とは一味違った豊かな体験を求める方にはピッタリです。

大自然を堪能

大自然を堪能

岩手県の鵜の巣断崖とエメラルド色の海(写真:ロビン・ルイス)

のどかな海岸や神聖な島々、古いトンネルなど、三陸の自然地形は多様で起伏に富んでいます。お気に入りの場所を選ぶのは難しいですが、私が再び訪れたいスポットをいくつかご紹介します。

断崖が連なる岩手県の北山崎から鵜の巣にかけての区間は、間違いなくトレイル屈指の絶景です。一部きついアップダウンがあるものの、高さ200メートルの断崖絶壁の眺望とその近くにある(ほとんどの観光客は足を踏み入れない)手掘りトンネルは必見です。

トレイル北端の青森県・種差海岸は、目を見張るような太平洋の景色を眺めながら広い草原に延びる比較的平坦な道を歩けるハイカーのパラダイスです。「鳴き砂」で有名な近くの大須賀海岸にも足を伸ばしてみましょう。歩くと足元でキュッキュッと音がするのは、不純物の少ないきれいな砂浜の証だと言われています。

福島県にある鹿狼山山頂からの眺望(写真:ロビン・ルイス)

宮城県では、松島湾に浮かぶ浦戸諸島をめぐり、表情豊かなトレイルを歩きながら島のスローライフに触れることができます。牡鹿半島の沖合にある霊島・金華山にもぜひ立ち寄ってください。参拝すると金運に恵まれるとされる黄金山神社があり、また、原生林のハイキングや素晴らしい景色が楽しめます。

トレイルの南部では、福島県にそびえる鹿狼山に登り、山頂から太平洋の海岸線と内陸の山々を見晴らす雄大な眺望を満喫しましょう。運が良ければ、この地域に生息する神秘的なたたずまいのニホンカモシカに出会えるかもしれません。

北国のホスピタリティ

北国のホスピタリティ

宮城県塩竈市にあるゲストハウス「みなと丸」のオーナー、ユウスケさん(写真:ロビン・ルイス)

みちのく潮風トレイル沿いには様々な宿泊施設がありますが、区間によっては数が少ないこともあるため、前もって計画を立てるのがベストです。有志によってまとめられた英語のマップには、数百ヶ所もの宿泊施設や銭湯、キャンプ場などの場所が掲載されています。

トレイル沿いに数多くある家族経営の小さな旅館やゲストハウスのうち、私のお気に入りのひとつは、塩釜市にあるゲストハウス「みなと丸」です。オーナーのユウスケさんは、宿泊客を塩竈の魚市場で朝獲れたばかりの魚を食べる早朝ウォーキングツアーに連れて行ってくれます。

もっと豪華な宿泊先をお探しなら、岩手県田野畑村のホテル羅賀荘で一泊か二泊するのもいいでしょう。このホテルは津波で大きな被害を受け、地域の復興にあたっては作業に従事する人々の拠点となりました。修復を経てリニューアルオープンした羅賀荘では、新鮮な海鮮料理、心身を癒すお風呂、そして客室から見える海の景色を楽しめます。

また、トレイル沿いには約25ヶ所のキャンプ場があります。そのうちのひとつは「猫島」として有名な田代島にあります。田代島へは石巻から船が出ています。

疲れた身体を癒してくれる宮城県南三陸町「ホテル観洋」のお風呂(写真:ロビン・ルイス)

さらに、50を超える温泉と公衆浴場がトレイルのあちこちに点在しているため、歩いて疲れた足を休め、リフレッシュする機会には事欠きません。私が特に気に入った浴場は、宮城県南三陸町にある「ホテル観洋」のお風呂です。美しい志津川湾を眺めながらゆったりお湯に浸かることができます。

寒流の親潮と暖流の黒潮がぶつかる三陸海岸は、年間を通じて新鮮で上質な魚介類が水揚げされる世界有数の漁場です。季節に応じて、獲れたばかりのウニやカキ、サバ、マグロ、ワカメなどが味わえます。

宮城県女川町の名物、旬の海鮮がぎっしり乗った「女川丼」(写真:ロビン・ルイス)

私のオススメ料理は、宮城県女川町の名物「女川丼」です。このシンプルながらとても美味しい海鮮丼は、女川駅近くにある「お魚いちば おかせい」の看板メニューです。また、未知の味覚に挑戦したい方は、地元の珍味「ホヤ」を試してみてはいかがでしょうか。ホヤはオレンジがかった赤い殻を持ち、「海のパイナップル」という愛称で親しまれる不思議な見た目の海洋生物で、多くの場合生で食されます。

追悼の場所

追悼の場所

岩手県大槌町にある「風の電話」は、亡くなった大切な人に思いを伝えるための場所(写真:ロビン・ルイス)

みちのく潮風トレイルの途中には、2011年の津波の被害や教訓を伝える記念碑や展示、遺構などがいくつもあります。自然災害の多い日本において、こうした場所は犠牲者を悼み遺族に寄り添うことと、過去の被災から学んで未来の災害に備えることの両方の意味で重要です。

中でも特に心を動かされたのは、岩手県の大槌という小さな町にある「風の電話」でした。静かな丘の上の庭にあるこの電話ボックスは、人々が亡くなった大切な人に思いを伝えるために置かれたもので、喪失の痛みに耐えるのを助けてくれます。現在国内外からたくさんの人が訪れるこの電話ボックスは、最近公開された映画の題材にもなりました。

仙台市にある荒浜小学校は、津波が押し寄せた当時のままの姿で保存され、震災遺構として公開されています。津波発生時、320人がこの校舎の上の階に避難し、全員が屋上からヘリコプターで救出されたことは「荒浜小学校の奇跡」と呼ばれています。現在この場所では、校舎内を歩きながら、震災当日の様子やこの地域がたどった復興の軌跡について学ぶことができます。

誰もが楽しめるトレイル

誰もが楽しめるトレイル

(写真:ロビン・ルイス)

みちのく潮風トレイルは、経験豊富な長距離ハイカーから日帰りの家族連れまで、誰にでも楽しめるトレイルです。

迫力あふれる自然の風景、美味しい郷土料理、東北地方の文化、心のこもったおもてなし、そして、被災地に学びその復興に貢献する体験のすべてが味わえるこのトレイルは、まさに唯一無二です。

日本で豊かな体験を求めて旅行を計画する際は、ぜひみちのく潮風トレイルを訪れてみてください。皆さんが私と同じように東北で素晴らしい時間を過ごせるよう願っています。

ハイキングに最適な時期

トレイルは年間を通じてハイキングできますが、冬は道の凍結や積雪に、また夏は暑さによる体力消耗にご注意ください。私のオススメは、春の桜の花見が楽しめる時期と、秋の気温が落ち着いて山々が紅葉に彩られる時期です。冬はキャンプ場など一部の施設が閉鎖されるため、できるだけ楽しい旅にするためには、事前に情報を集め、旅程をしっかり計画しましょう。

アクセス

トレイルの最北端は、青森県の鮫駅が最寄りの蕪嶋神社です。東京から鮫駅へは、まず新幹線で八戸駅へ行き、そこからJR八戸線で向かいます。反対側の最南端は福島県相馬市の松川浦環境公園です。東京駅から相馬駅へは、新幹線で仙台駅まで行き、JR常磐線に乗り換えます。トレイル沿いのローカルな交通手段としては、三陸海岸のほぼ全域を縦断する三陸鉄道リアス線をはじめ、多数の電車やバスの路線が利用できます。事前に乗り場や発着時刻を調べて目的の区間へ向かいましょう。

持っていくものと宿泊先

持っていくものと宿泊先

(写真:ロビン・ルイス)

持っていくもの

こちらのページの持ち物リストを参考にしてください(英語):
https://www.michinokutrail.com/packing

宿泊先

宿泊施設に関する英語の情報は、こちらのページをご覧ください: https://www.michinokutrail.com/accommodation

その他の英語の情報

- Michinoku Trail Hiker’s Guide(英語):みちのく潮風トレイルを訪れる人のために有志がまとめた地図や荷造りなどに関する情報が掲載されています: www.michinokutrail.com

- みちのくトレイルクラブ:みちのく潮風トレイルを運営するNPO法人みちのくトレイルクラブは、ウェブサイト上でハイカーに役立つ英語の情報を提供しています。また、ソーシャルメディアを通じても情報を発信しています:https://m-tc.org/en/


(訳/津川万里)