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GO WILD TOKYO 5/ ほどよい自然とアートが混ざり合う、東京・小平で過ごす1泊2日のキャンプツアー

GO WILD TOKYO 5/ ほどよい自然とアートが混ざり合う、東京・小平で過ごす1泊2日のキャンプツアー

東京といえば高層ビルやにぎやかな街並みを思い浮かべる人も多いが、実は大自然も存在するのをご存知だろうか。都心から少し足をのばした多摩・島しょ地域には驚くような自然が広がり、都会の喧騒を離れ、リフレッシュできる絶好の場所が東京にも存在する。最近旅行者に人気のアドベンチャーツーリズムは、「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅の形である。日常を離れ、新たな発見をする旅へ出かけてみてはいかがだろうか。GO WILD TOKYO!

By AAJ Editorial Team

小平市は東京都の北多摩エリアのほぼ中央に位置し、水と緑の資源に恵まれた環境が色濃く残っている。特に玉川上水は、小平の原風景といえる存在だ。江戸時代に整備されたこの上水によって水の供給が可能になり、やがて新田開発とともに集落が形成され、小平の町がかたちづくられていった。その歴史的背景を受け継ぐ小平は、今も上水沿いに穏やかなたたずまいを見せている。

小平は、多摩エリアの中でも、自然と人々の手による表現やものづくりが寄り添う土地だという。たとえば、西多摩がアウトドアを前面に押し出しているのに対し、ここは暮らしに根ざした体験や活動ができることを魅力としている。

そんな小平で開催されたのが、「ART CAMP VILLAGE in KODAIRA」。これは玉川上水緑道や小平市の子どもキャンプ場で開かれた、「自然」「アクティビティ」「文化体験」がほどよく融合した、親子向けのアドベンチャーツーリズム・キャンプイベントだ。玉川上水ウォーク、糸あやつり人形や古楽器コンサート、地元野菜を使った料理教室、テント講座など、プログラムは多彩。英語通訳付きで参加者の国籍や世代を問わない1泊2日のキャンプツアーを体験してきた。

舞台は玉川上水が育んだまち・小平

舞台は玉川上水が育んだまち・小平

自然豊かな玉川上水緑道沿いにはケヤキやクヌギ、コナラ、そして季節の花や実をつけた草木がいっぱい。

「ART CAMP VILLAGE in KODAIRA」は、2022年に初めて開催。今回は2回目となり、地元在住の親子を中心に11組が参加し、外国人の姿も見られた。

主催した、こだいら観光まちづくり協会は、法人・団体・市民で観光まちづくりを推し進める、地域・民間主体の組織。地域事業者や学校と一緒にさまざまなイベントを企画・運営している。「ART CAMP VILLAGE in KODAIRA」では、地元の事業者のほか、デザイナー、建築家、映像作家など、さまざまなジャンルのクリエイターも運営メンバーに加わった。今回の企画・プロデュースをするART CAMP VILLAGE実行委員会 代表の崎谷未央さんも観光や旅行系出版を多く手がけ、現在は多摩地域に密着した冊子を企画する、編集者としての顔を持つ。

このツアーでは、そうした土地ならではの個性を生かし、小平市のキャンプ場にテントを張り、自然の中で1泊2日を過ごす間、さまざまな体験を味わえるものだ。
緑豊かな玉川上水緑道でのウォーキングの間、同行したガイドから小平における水の役割や玉川上水の歴史、生きものの話など、さまざまな解説があった。単なる散策にとどまらず、地域への理解を深められる学びの機会となっていた。

当日は、子どもたちに「玉川上水ワークブック」というオリジナル冊子も配布された。かわいらしいイラストとともに、生きものの豆知識やクイズ、観察のポイントなどが盛り込まれており、立ち止まってページを開いたり、親子で会話を交わしたりしながら楽しむ姿も見られた。
遊びながら学べる仕掛けが随所にあり、大人にとっても新たな発見がある、充実したひとときだった。

ツアーではガイド付きで玉川上水緑道を散策。

玉川上水では、水際まで近づき、清流に触れることもできる。

地元アーティストとつくる、文化体験プログラム

地元アーティストとつくる、文化体験プログラム

ロバの音楽座の演奏。洞窟をイメージしたという楽団所有のホールは木の温もりと不思議な音色に包まれる。

文化体験ができるのもこのキャンプツアーの特色。「アートを静かに鑑賞するものから、わくわくと体感するものに変えたかったんです。今回は“遊びの延長にある学び”をテーマに、誰もが気軽に楽しめるプログラムを用意しました。特に、初めてアートに触れる子どもたちにとって、心に残る体験になってくれたら嬉しいです」(崎谷さん)

プログラムには、地元で活動する多彩なアーティストが参加している。たとえば、公演とワークショップを行ったのは、小平を拠点とする糸あやつり人形劇団「一糸座」。代表の江戸伝内さんは、江戸時代から続く伝統を受け継ぐ現役人形遣いで、その経歴は実に72年以上に及ぶ。「まるで人間国宝のような方なんです。地元の方でもその存在を知らない人もいて、ぜひこの機会に知ってほしくて、出演をお願いしました」と、崎谷さんは話す。

寛永年間から続く糸あやつり人形の家系・江戸伝内さんは、5歳から舞台に立ち続けている。

公演後は参加者が糸あやつり人形を体験。直立させることもうまくいかず、あまりの難しさに一同驚いていた。

さらに、玉川上水沿いに拠点を構える音楽団体「ロバの音楽座」。中世・ルネサンス時代の古楽器や、彼らが創作した空想楽器を使って紡がれる音は、子どもにも大人にも新鮮な驚きを与え、古き良き文化と現代の表現が交差し、笑い声があふれていた。「僕も演奏したかった」という声が子どもたちから飛び出すほど。

ユニークな楽器や音の響きを使った音楽パフォーマンスの数々に、大人も子どもも大いに盛り上がった。

夜にはキャンプ場で、「ダジック・アース」という特別な映像体験が行われた。球体のスクリーンに地球や太陽、火星、木星などの映像が映し出され、まるで巨大な地球儀が目の前に現れたようだった。

天文学者がやさしい口調で宇宙の話を語り、子どもたちにもわかりやすい内容になっていた。草木を揺らす風の音が静かに響く中、プラネタリウムとはひと味違う、穏やかな時間が流れていた。

ダジック・アースのナビゲーターは、元国立天文台職員で天文学者の萩野正興さん。

親子で楽しむアウトドア体験とコミュニティの芽生え

親子で楽しむアウトドア体験とコミュニティの芽生え

会場となった「きつねっぱら公園子どもキャンプ場」。住宅街の一角にある、小平市と地域住民が連携して保全する純粋な自然環境。

「ART CAMP VILLAGE in KODAIRA」は、ただのキャンプイベントではない。小平という土地の風土や暮らしの要素を取り入れながら、地域内外の人びとが関わり合う場をつくる──それがこのプロジェクトの根底にある考え方だ。

その考え方を感じられる場面のひとつが、屋外で行われた親子向けのスパイスカレーづくりだった。「この食材を次に投入してください」と、英語で書かれたフリップを使って、クイズ形式で調理が進行するなど、遊び心もたっぷり。外国人も参加する国際色豊かな場では、初対面でも参加者同士の会話が弾む。

もちろん食材には地元野菜を使用。小平には農地が多く、直売所やファーマーズマーケットが地域の暮らしに根づいている。地産素材であるということでまた会話が生まれる。薪で火を起こし、鍋を囲んだ調理では、自然と共同作業の場を生み出していた。

スパイスの香りに包まれながらカレーづくりがスタート。 アンドスパイスの屋号でカレー屋をしている田口美緒さんが英語のクイズ形式で楽しく教えていた。

カレーが完成する頃にはキャンプファイヤーが灯され火を囲みながら皆笑顔で味わっていた。

「親も本気で楽しめる、子ども向けイベントを意識しました」(崎谷さん)。子どもたちはもちろん、大人たちにとっても“自分ごと”として参加できる主催者の工夫が、自然な交流を育んでいた。

宿泊のためのテントも、小平市に店舗を構える老舗アウトドアブランド「ogawa GRAND lodge」のスタッフがサポートに入り設営。アウトドア初心者へも配慮があり不安なく楽しめる。

参加者からも「キャンプははじめてですけど、すぐ近くにスタッフもいるので安心だと思って参加しました。ほかの参加者たちともプログラムを通じて仲良くなれたので、すごくいい時間を過ごせました」と、独特のアットホームな雰囲気は大人にも好評。「人をつなぎ、横のつながりをつくる」という崎谷さんの思いは成功していた。

ツアーには通訳のライアンさん(写真左)も同行。参加した外国人も小平の豊かな自然とユニークなプログラムを満喫。

小平を「自然×アート」の未来型モデルへ

小平を「自然×アート」の未来型モデルへ

ART CAMP VILLAGE実行委員会の代表・崎谷さん。旅行雑誌の編集や旅行ツアーの企画の経験から「自分が旅人だったら、こんな体験がしたい」そんな視点を大切にしている。

イベントは50人程度の小さな規模で開催されたが、それがかえって参加者同士の距離感や満足度を高めていた。「むしろ少人数で回を重ねていく方が、小平らしい展開ができるかもしれません」と今後の展望を語る崎谷さん。

現在は、教育コンテンツとしての展開も検討しており、学校向けプログラムや、インターナショナルスクールの生徒向けワークショップなど、地域資源を活かした学びの場としての広がりも期待されている。

「『なんにもない』と言われがちな小平だけど、裏を返せば『手を入れすぎていない場所』なんです。だからこそ、自然や文化に素直に向き合える可能性がある。そうした余白に、アートや体験を差し込んでいきたいんです」(崎谷さん)

「ART CAMP VILLAGE in KODAIRA」は、単なるイベントの枠を超え、地域資源を活かした新しいアドベンチャーツーリズムとして、今後の広がりを期待させる内容だった。「自然×アート」の試みは、確かな一歩を踏み出したばかりである。

日本語の他に英語でのパンフレットも用意された。

隣接する公園で行われたランタンワークショップの作品が夜のキャンプ場をアートに彩る。

翌朝は地元の人気おにぎり屋「鈴なり」の作りたて朝食も用意されており、ゆったりとした朝が訪れた。

ART CAMP VILLAGE in KODAIRA
公式ホームページ:https://artcamp-village.com/
SNS:https://www.instagram.com/artcampvillage/

【開催実績】
実施日:2025年5月31日(土)〜 6月1日(日)
会場:小平市立きつねっぱら公園子どもキャンプ場 【地図】

※本内容は、「(公財)東京観光財団 アドベンチャーツーリズム推進事業助成金」を活用して実施しています。


文/まついただゆき 写真/湯浅立志

AAJ Editorial Team

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