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GO WILD TOKYO 3/檜原村の自然の中でリトリート体験

GO WILD TOKYO 3/檜原村の自然の中でリトリート体験

東京といえば高層ビルやにぎやかな街並みを思い浮かべるかもしれませんが、実は大自然も存在するのをご存知でしょうか。都心から少し足をのばした多摩・島しょ地域には驚くような自然が広がり、都会の喧騒を離れ、リフレッシュできる絶好の場所が東京にもあるのです。最近旅行者に人気のアドベンチャーツーリズムは、「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行のこと。日常を離れ、新たな発見をする旅へ出かけてみませんか? GO WILD TOKYO!

今回のアドベンチャーツーリズムは、前回に続き、東京の西に位置する檜原村にフォーカスする。檜原村は、山梨県や神奈川県と接し、豊かな山の資源の交易ルートとして、古くから拓けてきた静かな山里だ。
檜原村の魅力が、ぎゅっと凝縮されたスポットとして注目したいのが、「たなごころVillage(ビレッジ)」。有機米酵母のパンが焼かれ、渓谷に面したサウナやバーベキュー付きのコテージが利用できる。村の自然をたっぷり味わいつつ、ほっこりリラックスすることもできる、“檜原村の体験型テーマパーク”とも言える施設だ。
今回、オーストラリア出身のYouTuber、カレントリー・ハンナさんが、リトリート(日常からしばし離れ、心身をリフレッシュする旅)をテーマとした、アドベンチャー・ツーリズムを体験するため、この「たなごころVillage」を訪問した。

檜原村で、東京の山里の自然と暮らしを体感

檜原村で、東京の山里の自然と暮らしを体感

多摩川の支流である秋川上流の渓谷沿いに建つ「たなごころVillage」。周辺には、檜原都民の森、払沢(ほっさわ)の滝、神戸(かのと)岩など奥多摩の自然を楽しめる名所も。

ハンナさんは大阪から東京へ引っ越して来たばかり。檜原村も初訪問だったため、「ここは、本当に東京?」と驚く。「東京は都市だけではなく、山も島もあるとても広いエリアなんですね! 私の故郷のオーストラリアは、ダイナミックな自然景観は多く見られますが、こうした人の暮らしのそばにある清流の風景は、新鮮に感じます」

そんなハンナさんの本日の目的は、2024年からスタートした「リトリート体験イベント:ヴィーガンランチ付き ヨガとサウナと自然体験」。自家製野菜をふんだんに使ったヴィーガンランチに始まり、檜原村の急峻な畑での農業体験、せせらぎを聴きながらのヨガ体験に加え、最後は渓谷沿いのサウナに入れるという贅沢なパッケージだ。

ヴィーガンランチは、地元の食材をふんだんに使用し手間暇かけて調理される。ツアーの参加者以外では、週末限定5食(4名以上の事前予約で、平日対応も可)と特別感満載。

秋川の清流に臨むテラス席でヴィーガンランチをいただくところから、リトリート体験ツアーはスタートする。
大学ではダンスを学び、パフォーマーとして活動もしていたハンナさんは、ベジタリアン。健康や環境への意識が高い海外の大都市では、ファストフード店でも対応メニューがあるほどだが、大阪や東京でベジタリアンのメニューを探すのは、まだまだ難しいとハンナさんは話す。ベジタリアンメニューの中でも、「たなごころVillage」が提供するのは、動物性の食材を一切使用しないヴィーガンメニュー。使用する野菜のほとんどが檜原村産でまかなわれており、ヴィーガン食初体験でも、美味しくいただける工夫もされている。

この日のランチは、豆乳マヨネーズのカボチャのサラダ、豆乳ホワイトソースのグラタン、レタスと近所で採れたトマトのサラダ、素揚げナスの擦りおろしタマネギポン酢浸し、ズッキーニとヘチマの自家製塩麴炒め、有機米酵母のたなごころパン、夏野菜のラタトゥーユ。中央はニンジンのエビフライ風と、くるま麩のフライ。そして、デザートにミョウガのシャーベット(写真参照。上から時計まわりに)。
「野菜の種類がたくさんで、どれもフレッシュで歯ごたえがありますね。野菜だけでなく、お麩でタンパク質がしっかり摂れるのも嬉しいです。エビフライに見立てたニンジンなど、遊び心があるのも楽しい」(ハンナさん)

季節の野菜をふんだんに使ったヴィーガンランチ。

「食材によって、一緒にいる家族や友達が同じものを食べられない、時間を共有できないことはとても残念だと感じていました。一緒にいるみんなが“美味しい”って感じてもらえたら、誰もが笑顔になりますよね」と語るのは、ヴィーガンメニューを開発した井上店の井上百合子さん。

農業体験とヨガで、五感を研ぎ澄ます。

農業体験とヨガで、五感を研ぎ澄ます。

農業体験ができる畑は、「たなごころVillage」から車で5分ほど。春はシイタケ、夏はブルーベリーやジャガイモ、秋はシイタケやキウイの収穫体験、冬場は、焚き火とホイル焼き体験等、季節折々の体験が楽しめるのも魅力のひとつ。

農業体験で摘んだブルーベリーは、持ち帰ることもできる。

ヴィーガンランチを堪能した後は農業体験へ。山里である檜原村では、平坦な土地が限られているため、農業は日当たりのよい傾斜地で営まれる。一般的な観光農園では体験できない、こうした山里ならではの暮らしや文化に触れられるのもリトリート体験の特徴である。

農業体験は、季節によって収穫できる作物が変わる。ハンナさんが訪れた時期の旬は、ブルーベリー。ブルーベリーは日本で栽培種として流通しているものだけでも100種類以上あると言われているが、「たなごころVillage」のパン工房でも使われるため、ここでは10種類以上もが植えられている。熟し具合を味見しつつ、好みの味を探すのも楽しい。
「今までイチゴを摘んだことはありましたが、ブルーベリー収穫は初めて。酸味のある品種もありましたが、私の好みは甘くて大粒のブルーベリー。そのまま食べても、ヨーグルトにそえても美味しいですよね」(ハンナさん)

ブルーベリーの周辺の畑でも、季節に応じてシイタケやジャガイモ収穫などが体験できる。ヴィーガンランチで使われた季節の野菜の多くも、この畑で育てられたという。檜原村の大地の恵みと人々の暮らしを、まさに五感で感じられるのだ。

ヨガのセッションは1時間。季節に応じ、「たなごころVillage」内の快適な場所で開催される。この日は気温が高かったため、ヒノキの香りに包まれる宿泊棟の客室内にて。

農業体験で気持ちの良い汗をかいた後は、ヨガ体験で心身をリフレッシュできる。
レッスンを担当するのは、ヨガインストラクターのmamikoさん。実は彼女がここのスタッフだった頃、周囲の素晴らしい自然に感銘を受け、休憩時間を使って緑に囲まれながらのヨガを楽しんでいたそう。その姿が社長の目にとまり、今回のプログラムに取り入れるキッカケになったのだとか。
「春や秋は渓谷にすぐに下りられるウッドデッキでヨガを行います。ヨガでは、五感をとても大切にします。自然の香りや緑を楽しみ、渓流の音や鳥のさえずりを聴き、空気を味わい、風に触れる贅沢な時間を過ごせます。この檜原という場所は、人間が、生き物としての原点に還れる場所だと思います」(mamikoさん)

身体も心も整う、絶景サウナ体験

最後に待っているのが、バレルサウナ体験。バレルサウナとは、北欧生まれの樽型のサウナのこと。屋外に設置することができ、円形のため、室内が効率よく温められるなどのメリットがある。2024年に完成したばかりだ。サウナを温める薪も、もちろん檜原村産の間伐材。地元の自然の「恵み」を体感できる施設となる。
「バレルサウナは、新しくて、とても清潔でした。ロウリュ(サウナストーンにアロマ水をかけたときに発生する蒸気)のアロマの香りと、渓谷の瀬音に包まれる感覚を楽しめました。窓から見える自然との一体感は、他では味わえないと思います」(ハンナさん)

そんなハンナさんが特に気に入ったのは、水風呂ならぬ“沢風呂”。この施設の最大の特徴は、目の前に溪谷があること。サウナで火照った体を、水温20度以下の清流に浸って整えるのが、訪れる人々にも大人気だという。
「すぐに沢に入れるのは、とても魅力的です。冷たい沢に入った途端、水に包まれる感覚に圧倒されます! 沢から上がると、身体も心もリフレッシュできます」(ハンナさん)

バレル(樽形状)サウナでくつろぐハンナさん。窓の外は、時の流れを忘れさせてくれる秋川渓谷の緑。この景色だけで整いそう。

バレルサウナの水風呂も、ロウリュの清潔な水も、檜原村の山の水を利用している。ロウリュに用いるアロマは、シトラス、ブラックフォレスト、マウンテンハーブの3種類から選べる。

サウナストーンを熱するための薪ストーブで燃やす薪は、檜原村の間伐材などを利用。「たなごころVillage」では、檜原村の山の恵みを感じられる工夫が随所に施されている。

サウナには水風呂もあるが、圧倒的な人気は、火照った身体を冷ます“沢風呂”。

都会の喧騒から逃れ、檜原村へ“ラブリーエスケープ”

「今日のリトリート体験は、いろいろなメニューが用意されていました。私のように自然の中でアクティブに過ごすことが好きな人なら、きっと満足できると思います。都会の喧騒から少し離れたい、“ラブリーエスケープ(ステキな逃避行)”にピッタリの場所ですね」(ハンナさん)

改めて「たなごころVillage」が提供するリトリート体験を振り返ると、共通するのは、自然との近さだ。山々に囲まれたテラス席でのヴィーガンランチも、山里の季節を感じる農業体験も、せせらぎに癒されるヨガやバレルサウナも、みな自然からの恵みで成り立っている。

「たなごころVillage」を運営するのは、地域の燃料店として“心豊かな暮らしをおくること”を大切にする井上店。檜原村の暮らしに根差してきた地元企業である。リトリートの流行を取り入れつつも、檜原村を知ってもらい、好きになってほしいというホスピタリティの高さは、実は山里の人々のおもてなしの心そのものなのだ。

「普段からお越しいただいているお客様はさまざまです。パン工房へは地元や多摩地区の女性が多く、コテージでの宿泊は川遊びやバーベキューを楽しみたい30代のファミリー層が中心です。サウナは20代の方々も都心からたくさんいらっしゃいます。皆さん、自然環境を“貸し切り”で楽しめるような、プライベートな空間を味わえることに魅力を感じていただいているようです」
と語るのは、今回のハンナさんの体験をサポートしてくれた「たなごころVillage」の広報担当・鈴木彩瑛さん。

「今回、ご案内したリトリート体験は、月1回のペースで続けていきたいと考えています。自然の中でアクティビティを楽しみ、自分を解放することも、私たちはアドベンチャーツーリズムだと捉えています。日頃、都会の生活にストレスを感じていて、“自然の中で、この体験を一度してみたかった”という方なら、年齢を問わず大歓迎です。“また来るよ”と言っていただけるよう新しい提案を、スタッフ一同で考え、ご用意しておきます!」(鈴木さん)

檜原村の木のぬくもりを感じさせる「たなごころVillage」のレストラン。週末限定のヴィーガンランチ以外にも、薪窯で焼くピザやパスタも提供している。有機米酵母のパン工房も併設。

今回のリトリート体験ツアーをアテンドしてくれた鈴木彩瑛さん。「『たなごころビレッジ』では、山が豊かであることを大切にしています。さまざまな生き物を育む山が豊かであることは、地域の暮らしだけではなく、すべての人たちが豊かになること。そんなことも感じてもらえたら嬉しいです」

たなごころvillage
住所:東京都西多摩郡檜原村人里2100-1 【地図】
☏042-598-6307 営業時間10:00~18:00(宿泊を除く)
リトリート体験(モニター価格): 8,800円(税込)。内容によっては変動する可能性あり。
Webサイト:https://www.tanagokoro-village.com/
クルマ:圏央道「あきる野IC」または「日の出」より約30㎞
電車とバス:JR五日市線「武蔵五日市」より西東京バス「数馬」行きにて「笛吹入口」下車

【アドベンチャーツーリスト】
Currently Hannah(カレントリー・ハンナ)
オーストラリア東部ブリスベン出身のYouTuber。パフォーミングアーツを大学で学び、ダンスパフォーマーとして関西のテーマパークで働くために来日。すぐに日本の自然に魅了され、YouTuberへ転身。トラベルebookの刊行を含め、日本の自然やカルチャーに触れるコンテンツを発信している。

※本内容は、「(公財)東京観光財団 アドベンチャーツーリズム推進事業助成金」を活用して実施しています。

文/大田原 透 写真/石原敦志