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越境する食―日本の食文化を世界へ発信/北川浩伸(日本食品海外プロモーションセンター〈JFOODO〉執行役)×江幡哲也(株式会社オールアバウト・代表取締役社長)

越境する食―日本の食文化を世界へ発信/北川浩伸(日本食品海外プロモーションセンター〈JFOODO〉執行役)×江幡哲也(株式会社オールアバウト・代表取締役社長)

日本の農林水産物・食品の海外における需要創造とブランド化に取り組むため、2017年、日本政府により設立されたJFOODO。その執行役を務める北川浩伸氏と、インバウンドメディアも手掛けるオールアバウトの江幡哲也社長が「越境する食のいま」について語り合う。

By AAJ Editorial Team

JFOODOとは?

JFOODOとは?

北川執行役(左)と江幡社長(右)

江幡社長(以下:江幡) 本日はよろしくお願いいたします。最初に、JFOODOという組織について、ご紹介いただけますか?

北川執行役(以下:北川)  JFOODOは、日本産の農林水産物・食品のブランディングに向け、「オールジャパンでの消費者向けプロモーション」を担う新たな組織として、2017年4月にJETRO(日本貿易振興機構)内に創設されました。よく「JETROと JFOODOは、どう違うんですか?」質問されるのですが、JETROが日本のエクスポーターと海外のインポーターをつなぐBtoBの部分を担っているのに対して、JFOODOは「消費者に対するブランディング」つまりBtoCを主な役割としています。「日本の食を海外の消費者に直接PRして訴求する」というのが私たちの仕事です。

江幡 「JFOOD」ではなく、最後に「O」がついて「ジェイフード―」と発音するのですね。これには、どんな意味が込められているのですか?

北川  日本を象徴するイメージとして、海外でも知名度の高い「武士道」「剣道」「茶道」などがあります。これらと同じように「食の道」を世界に発信する、そして、食を日本の「風土」とともにアピールする姿勢を表現しています。

江幡 どんな目標を掲げているのでしょうか?

北川 日本政府は2020年に、農林水産物・食品の輸出額を「2025年までに2兆円、2030年までに5兆円に増やす」という目標を設定しました。2023年は1兆4547億円と過去最高額を更新し、2兆円の中間目標に向けて順調に推移してきました。ただ、「2030年までに5兆円」という大目標の達成に向けては、これまでとは異なる、新たなアプローチも検討していく必要があると考えています。

JFOODOのロゴマークは、都道府県の数と同じ47個の「○」でできている。日本全国が一丸となって協力し合う様子を表す。

JFOODOの活動内容

江幡 どんな日本産品を、どの市場に売り込もうとしているのでしょうか?

北川  私たちJFOODOの取り組みは、「戦略的に品目を選定し、限定した市場を対象にプロモーションを行う」という点が特徴です。
2023年度にJFOODOがプロモーションを行った品目は、日本産水産物、日本和牛、日本茶、日本産コメ、日本酒、焼酎・泡盛、品目横断(複数の輸出重点品目を組み合わせたもの)の7品目です。例えば日本産水産物では、ブリ(ハマチ)、タイ、ホタテを、香港、台湾、米国(ブリのみ)に向けてプロモーションする。日本和牛は米国と欧州、日本酒なら中国、米国、香港、シンガポール、フランス、英国という具合です。

江幡 具体的には、どのようなプロモーション活動を行っているのですか?

北川  第1は、日本産食品を喫食・購入してもらいたいターゲットに対して、日本産食品を認知してもらうための活動で、デジタル広告やインフルエンサーを活用した広告宣伝活動や、海外の外食店・小売店などで、消費者に向けて喫食や購買の直接的な働きかけを行うためのキャンペーンなどを行っています。
第2は、国内の生産者・輸出事業者の方々に、現地の食文化や市場動向などを知ってもらうための活動です。海外にチャレンジするにあたって、現地の人々が、どんな素材をどんな風に調理して楽しんでいるのか、などの情報をホームページ等で提供しています。

江幡 「プロダクトアウト」だけでなく「マーケットイン」の発想が大切、ということですね。そうした情報は、どんな形で提供されているのでしょうか?

北川  2023年度、JFOODOでは米国(ニューヨーク、ロサンゼルス)、フランス、香港、台湾、中国の6都市に、「海外フィールドマーケター」を配置したのですが、彼らが、食にまつわる現地のリアルタイム情報をレポートし、ホームページで発信しています。さらに、 グループインタビューを実施して「好きな日本食は?」「どこで日本食を購入しますか?」など、現地の人の嗜好や習慣などについてもレポートしています。輸出に取り組む方々に、海外へのマーケットイン発想のヒントにしていただけたらうれしいですね。

江幡 レストラン経営など、現地で食関係のビジネスを展開している日本人や、日本食・日本食材を提供している現地のシェフなどは、現地生活者のニーズを熟知しています。そういう人たちに「仲間」として参加してもらうのも有効かもしれませんね。

北川  そう思います。ビジネス的な意味でのネットワークを超えて、インフルエンサー、インポーター、食品輸送を担う方など、思いを同じくする人たちの間で仲間をつくらなければいけないと思っているので、今後はそういった仲間を増やすための取り組みも行っていきたいですね。

日本の食の循環システム

日本の食の循環システム

2023年8月、訪日外国人に、空港で写真撮影やカプセルトイを楽しんでもらい、SNS投稿やアンケート協力を促すイベントを実施。

江幡 2023年は、訪日客の旅行消費額が5兆2923億円と過去最高を記録し、今後はさらに増えることが期待されています。JFOODOでは、訪日外国人に対するPRなども行っているのでしょうか?

北川  はい。私たちにとって「海外で日本の食をPRすること」が一義的なミッションではあるのですが、日本の食の魅力を知ってもらうためには、訪日外国人へのPRも非常に大切だと考えています。実は、訪日外国人に「日本を訪問先に選ぶ理由」を聞いてみると、ナンバーワンが「日本食を食べること」なのです。
訪日外国人が日本国内で日本食や日本産品を消費してくれれば、食ビジネス関係者の収益がアップします。すると何が起こるかというと、産地が元気になるんです。海外からの観光客に「おいしい」と言ってもらったら、生産者の方々も意欲が湧きますよね。それによって生産効率が上がり、良質な農林水産物をたくさん生産できるようになれば、輸出がさらに増加する。そして、食ビジネスが「儲かる産業」になれば、第一次産業や食関連の職種に優秀な人材が集まるようになる……こんな循環サイクルをつくってきたいと考えています。

江幡 なるほど! これは夢のあるビジョンですね。こうしたビジョンを実現するために、JNTO(日本政府観光局)などとも連携されているのでしょうか?

北川 はい。2022年の12月に、JETRO、JFOODO、JNTOの三者で「相互連携に関する覚書」を締結しました。具体的には、海外で開催されるイベント会場でそれぞれの動画を放映したり、PR活動の連携、海外現地事務所間の情報共有などを行っています。いまは日本各地で、「アニメツーリズム」や「酒蔵ツーリズム」 など、さまざまな工夫を凝らしたインバウンド誘致を行っていますよね。こうした試みは、いずれも食との親和性が高いですから、それぞれの運営主体を「ゆるい紐帯」で結び、JFOODOの仲間に加わっていただけたら心強いですね。

新たな文化輸出の可能性

新たな文化輸出の可能性

2024年1月、LA最大級のアニメイベント「アニメロサンゼルス2024」に、アニメ作品「ラブライブ!サンシャイン!!」とコラボした飲食ブースを出展。

江幡 そうですね、いま、「アニメツーリズム」という言葉もありましたが、特にアニメは、対外プロモーションを行ううえで「最強の武器」になりそうな気がします。

北川 そうなんです。JFOODOでは2024年1月、LA最大級のアニメイベント「アニメロサンゼルス2024」に、アニメ作品「ラブライブ!サンシャイン!!」とコラボした飲食ブースを出展しました。そこで日本産食材を使った3種類のミールボックスを販売したんですが、1個18ドル(当時のレートで約2,600円)の弁当が飛ぶように売れて、4日間で何と300万円以上売り上げたんですよ。

江幡 それはすごい!

北川 弁当の具材に、アニメのキャラクターが大好きな食材を選ぶなど、ストーリー性を盛り込みました。これが人気につながったようですね。イベントでは来場者にアンケートを実施したのですが、「日本食が登場するアニメを見て、日本食を食べたくなりましたか?」という質問に、50%の人が「アニメを見て食べたいと思った」、24%が「食べたことがある」と答えています。ちなみに、「アニメを見て、食べたいと思った日本食は?」と聞いたところ、1位が「たこ焼き」、2位が「おにぎり」、3位が「カレーライス」でした。アニメに登場する食のシーンを通じて、日本の食材やレシピへの関心が高まり、実際に日本食を体験する潜在力になっているんですね。

江幡 イベントを開催するにあたっては、事前のプロモーションや来場者データの分析など、デジタルの活用は欠かせないところですね。当社のグローバル推進室では、幅広い海外ネットワークを生かしたコンテンツ制作、デジタルマーケティングを通じて、数多くの省庁や企業のインバウント施策を支援しています。「2030年までに5兆円」という大目標に向けて、お力になれたら幸いです。

北川 はい。食をプロモーションするためには、「リアルで味わってもらう機会」が大切なのはもちろんですが、事前にSNSを利用して集客を行い、事後にはEコマースサイトへ誘導するなど、デジタル技術も積極的に活用していく必要があると思っています。ぜひ、オールアバウトさんにもご協力いただければと思います。

江幡 よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

【Profile】
北川浩伸(きたがわ・ひろのぶ)執行役
1989年日本貿易振興会(現・日本貿易振興機構)入会。サービス産業のグローバル展開に向けて事業者の支援に取り組み、ロンドンセンター、企画部経営企画担当主査、総務部総務課長、サービス産業部長、ハノイ事務所長を経て2019年理事に就任。2021年よりJFOODO執行役を兼務。政府の各種委員会の委員や慶應義塾大学産業研究所共同研究員も務める。

江幡哲也(えばた・てつや)代表取締役社長兼グループCEO
1987年株式会社リクルート入社。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後数多くの事業を立ち上げる。1996年に立ち上げたキーマンズネットにおいては、14個のネット関連特許を取得し、高い評価を得る。1998年度全国優秀システム賞受賞。2000年、株式会社リクルート・アバウトドットコム・ジャパンを設立。代表取締役社長兼CEOに就任。2004年、株式会社オールアバウトに社名を変更。2005年9月にJASDAQ上場を遂げる。専門家ネットワークを基盤に世の中の「情報流・商流・製造流」の不条理・不合理に対してイノベーションを起こし、“個人を豊かに、社会を元気に”することを目指す。2022年度 東京都市大学大学院 総合理工学研究科客員教授に就任。

Text/ Akira Umezawa Photo/ Atsushi Ishihara

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