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日本発の地方創生ラグジュアリーブランドを目指す /大西洋(おおにしひろし)・株式会社羽田未来総合研究所 代表取締役社長執行役員インタビュー

日本発の地方創生ラグジュアリーブランドを目指す /大西洋(おおにしひろし)・株式会社羽田未来総合研究所 代表取締役社長執行役員インタビュー

羽田空港から世界へ旅立つ人々のタッチポイントである第3ターミナルの出国エリア。ここに2023年12月22日、日本発の地方創生ラグジュアリーブランド「JAPAN MASTERY COLLECTION(ジャパン マスタリー コレクション 以下JMC)」のブランドショップがオープンした。日本各地の優れた素材や技術、感性を100年後にも存続させるためのプラットフォームを標榜するJMCが目指すものとは何か、運営を手掛ける株式会社羽田未来総合研究所の代表取締役社長執行役員、大西洋氏に聞いた。

By AAJ Editorial Team
欧米と双璧をなす日本発のラグジュアリーブランドを

羽田空港第3ターミナル出国エリアに位置する「JAPAN MASTERY COLLECTION(ジャパン マスタリー コレクション)」のショップ外観。内装はデザイナーの森田恭通が手掛けた。

欧米と双璧をなす日本発のラグジュアリーブランドを

JMCは、「日本発の地方創生ラグジュアリーブランド」を目指すということですが、これは「日本の地方にある産業に新たな価値を付けてブランド化し、海外の人に提案していく」という理解でよろしいのでしょうか。

大西 洋氏(以下、大西) ここで言うブランドには二つの意味合いがあって、一つは今おっしゃった、地方の良いものを我々の目で選んでブランディングしていくこと。もう一つは、エルメスやシャネルといった欧米のラグジュアリーブランドと肩を並べられるような、日本発のブランドに将来的にはしていきたいという思いが込められています。

ラグジュアリーブランドとハイブランドという言い方がありますが、ラグジュアリーブランドは単に高額な贅沢品ではなく、その背景にある歴史や物語を含め世代を超えて永く愛されているものと捉えることができます。JMCもそうしたコレクションにしていきたいということでしょうか。

大西 JMCはブランドを起ち上げたばかりなので歴史についてはまだこれからの話ですが、一方で日本には数百年続く老舗や、それに付随するものづくりの技の蓄積があります。創業300年を超える企業がこれだけある国は世界の中でも日本だけではないでしょうか。そう考えると日本発のラグジュアリーブランドの確立も決して無理な話ではありません。

自動車や家電など、日本の製造業が世界から評価されていた時代は既に過去の話です。GDPがドイツに抜かれて世界4位になると言われている今、日本が世界にアピールすべきなのは、全国各地の伝統や歴史の蓄積に支えられた生活文化を、現代の視点で再解釈して提案することだと考えます。

JMCで取り扱うアイテムはどのような基準で選ばれているのでしょうか。

大西 長く小売の現場にいた経験から、さまざまなものに触れる機会が多かったので、我々が考える日本のスタンダードと呼ぶべきものをこの場所から提案していきたいです。今は地方にある優れたものを集める「編集」的な展開がメインですが、その中でも2割ほどは日本を代表するデザイナー、クリエイター、作家とのコラボレーション等によって新しい価値を生み出す「JMCでしか買えないアイテム」も扱っています。当然ながら、今後ブランドとして確立するためには100%オリジナルのアイテムにしていく必要があります。

草月流師範、亀井紀彦による「プリザーブドフラワー」。小さな器に色とりどりの小花を繊細に挿すことで壮大な世界が生まれる。

デニム生産地として知られる岡山県児島市の職人が世界的にも希少性の高い旧型の織機で丁寧に作るJMCオリジナルデニム「MUNI」。

メインショップに隣接する店舗では、不定期で入れ替わるテーマに基づいた展示販売が行われる。写真は山本寛斎事務所との共同企画「婆裟羅BASARA」の展示販売の様子。

「顧客価値」に見合った価格設定で生産者に還元

「顧客価値」に見合った価格設定で生産者に還元

JMCがターゲットにするのは「世界中の知的好奇心の強い顧客」とのことですが、商品の価格を見ても、数千円のものから数百万円のものまでかなり幅がありますね。

大西 ターゲットとしては欧米25%、中国25%、それ以外の台湾・韓国・南米などが50%をイメージしていますが、富裕層かそうでないかに関わらず、ご自分の価値観や生き方をしっかりお持ちになっている方たちを想定しています。価格が高いか安いかということよりも、そのものにどれだけの価値があるのかを見極めていただけるかが大切です。

「顧客価値」と言ってもよいと思いますが、その商品に対するお客さまの評価が1万円なのか2万円なのか3万円なのか、まず仮説を立てることが重要。材料費がいくらだから、そこに工賃や人件費を乗せていくらで売ろう、という既存のサプライチェーンの「積み上げ方式」の発想ではなく、そのものの「本質的な価値」が価格に反映されているべきなのです。今後はオリジナルアイテムを増やしながら価格決定権を持てるようにしていきたい。というのも、日本の生産者は良く言えば謙虚、悪くいえば商売っ気のない方たちが多いので、適正な価格設定にして生産者側にきちんと還元できる仕組みにしていきたいのです。

2019年のインバウンド1人あたりの消費額は約15万円でしたが、やはりこれでは輸出産業としては低すぎると思いますので、1人あたりの消費額30万円を一つの目標にして、生産者にもしっかり還元できる仕組みを築きたい。そうしなければ、地方の優れたものや技術は存続していかないと思います。

欧米のラグジュアリーブランドの中には、デニムなど日本の優れた素材を活用しているにも関わらず、生産者に適正な還元がなされていないという話も聞きます。JMCの取り組みは、こうした状況を打開する意味合いもあるのでしょうか。

大西 まさしく、私としてはそこに大きなモチベーションを感じています。小売業に関わってきた者として責任を感じている部分でもあるのですが、ここ数十年、国内のデニム等をはじめ日本の素材は、欧米のラグジュアリーブランドに流れている傾向があります。輸出産業としてはプラスになるのでよい面もあるのですが、日本人がその価値をもっと評価してプレゼンスを示していくことが重要だと思っていました。

もう一つ自分の中で大きかったのは、欧米のラグジュアリーブランドの日本国内における構図です。日本の百貨店や商業施設のメインフロアを欧米のラグジュアリーブランドが独占する構図は健全とはいえません。ある欧米のラグジュアリーブランドの営業利益率は30%近く、商品利益率も50%近くあるのですが、その一部がどこから出ているのかといえば日本の小売業からです。こうした構図をなんとか変えていかなければならないというのが私個人としては大きなテーマでした。そういう意味では、今回欧米ラグジュアリー免税店の側に出店することができたことは大きいと思います。百貨店などで新規ブランドがそういったラグジュアリーブランドの隣に並ぶことはまず無理ですが、空港だからこそ実現できた戦略といえます。

各地の優れたものを通じて国内の観光産業を底上げ

各地の優れたものを通じて国内の観光産業を底上げ

大西社長は前職の三越伊勢丹ホールディングス時代には小売の最前線で手腕を発揮され、「ミスター百貨店」とも呼ばれましたが、やはり百貨店での経験はJMCの企画・運営にも生かされているのでしょうか。また、オンラインショッピングが日常化する中、対面接客での販売による価値をどのように捉えていますか?

大西 JMCが扱う上質な素材や繊細なディティールを持つ高価格帯のアイテムは、やはり実際に店頭で見て、触れていただいき、その上で我々もきちんと商品の背景をご説明して、納得した上でご購入いただきたいと思っています。そういう意味では百貨店での接客なども反映されていると思いますが、その一方で、店頭での購買データや2次元コードによる商品情報閲覧データは、逐一生産者側へフィードバックして、次の商品開発に反映させるなど、デジタルデータの活用も同時に行っています。
閲覧データから、「どの商品に関心が高いのか」「どこの国の方が購入されたのか」などの相対比較が可能になります。こうしたデジタルマーケティングによる顧客情報の蓄積は今後ますます重要になりますし、それが企業の競争力につながる。ゆくゆくはこうしたデータを流通小売業に限らず多業種の企業に販売するところまで持っていけたらと考えているところです。

JMCは地方創生も大きなテーマになっているとのことですが、地方のいいものが羽田空港で買えるというだけでなく、それをきっかけに海外の方に従来はあまり注目されていなかった地域に関心を持ってもらうためのゲートウェイにしたいという意味合いもあるのですね。

大西 おっしゃる通りです。JMCを通じて日本各地の優れたものに触れていただき、それをきっかけに生産者や生産地域に興味を持ち、次に日本の来た時にはそこへ行ってみたいと思ってもらえるようにしたいですね。

日本にとって観光産業は今後ますます大きなポテンシャルを持つと考えられます。現在のオーバーツーリズムの問題を解消するためにも、東京、京都などのゴールデンルートと呼ばれる人気観光地以外の地方の良さにも目を向けてもらう必要があります。各地の優れたものを通して、これまではその魅力に気付かれることがなかった生産地域にも関心を持っていただき、送客を促す仕組みを構築したいと考えています。そうした意味でも、人、モノ、文化が交差するハブ空港に店舗がある意味は大きい。ここを起点に、今後は国内外の空港や商業施設などにもチャネルを増やしていきたいですね。

JMCはまだスタートしたばかりですが、欧米のラグジュアリーブランドと肩を並べるブランドに成長させていくことが目標です。そして、観光産業にも寄与しながら日本全体の国力アップにつながる文化的プラットフォームにしたいと考えています。

【プロフィール】
東京生まれ。1979年慶應義塾大学卒業。
三越伊勢丹HD社長を経て、2018年6月より日本空港ビルデング 取締役副社長、同年7月より羽田未来総合研究所 代表取締役社長を兼任。羽田空港内外で新しい価値創造を目指し、地方創生、文化・アートの発信に力を入れている。

【shop information】
名称:JAPAN MASTERY COLLECTION
場所:羽田空港第3ターミナル 出国エリア内       
営業時間:07:00~23:00
https://byemotion-intl.com/pages/jmc_main

AAJ Editorial Team

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