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横浜の住宅地に潜む小さなジン蒸留所と極上のカクテルバー

横浜の住宅地に潜む小さなジン蒸留所と極上のカクテルバー

横浜といえば、真っ先に思い浮かべるのはベイエリア、赤レンガ倉庫、そしてよく泡立った冷えたビールではないでしょうか。

実際、横浜は日本で最初に開港した港町の一つであり、世界各国から船が入港し、多種多様なお酒やカクテル文化がもたらされました。
(※この記事は簡体字記事を翻訳してご紹介しています)

日本におけるカクテル発祥の地

日本におけるカクテル発祥の地

鸡尾酒“横滨”(カクテル「ヨコハマ」)

「カクテル」という言葉は、明治時代(1868〜1912年)、横浜開港と同時に日本に伝わりました。

当時の日本では、輸入品が極めて稀であったため、カクテルは上流階級だけの嗜好品で、限られた場所でしか飲めませんでした。そうした中で、日本で最初にカクテルを提供したバーが横浜中華街近くの山下エリアにありました。1890年、横浜グランドホテルは有名なドイツ人バーテンダーであるLouis Eppinger(ルイス・エッピンガー)をバーマネージャーとして迎えました。彼が考案したクラシックカクテル「バンブー」は瞬く間に大ヒットし、日本のカクテルの名を国内外に広めることになりました。国際バーテンダー協会のリストにも掲載されています。彼の影響で、彼のアシスタントだけでなく多くの人が次々とカクテルバーをオープンし、日本にカクテルが普及していきました。

最初のカクテル「ヨコハマ」

最初のカクテル「ヨコハマ」

1923年的鸡尾酒“横滨”配方(1923年のカクテル「ヨコハマ」レシピ)

カクテル「ヨコハマ」は横浜グランドホテルで誕生したと言われていますが、考案者は定かではありません。このカクテルはウォッカをベースとして使用した記録のある最初のカクテルの一つであり、また都市の名前が付けられた数少ないカクテルの一つでもあります。

◆カクテル「ヨコハマ」の参考レシピ:
BRONCO 20(ブロンコ 20) ジン 30ml
ウォッカ 15ml
フレッシュオレンジジュース 30ml
ザクロシロップ 5ml
アブサン 1dash(約1ml)
氷を入れてシェイク

横浜ジン蒸溜所

横浜ジン蒸溜所

横滨金酒蒸馏所(横浜ジン蒸溜所)

日本のカクテル発祥の地である横浜にはさまざまなバーがありますが、実際に蒸溜酒を製造している場所はほとんどありませんでした(かつてはウイスキー蒸溜所がありましたが、何十年も前に閉鎖されています)。一方でここには有名なブルワリーや小さなクラフトブルワリーがたくさんあります。そんな中、2020年12月、横浜・日ノ出町に小さな手作りジン蒸溜所「横浜ジン蒸溜所」が誕生しました。

横浜ジン蒸溜所は、横浜で有名なクラフトブルワリーの横浜ベイブルーイングが出資し、全日本フレア・バーテンダーズ協会名誉会長の北條智之さんが監修した手作りジン蒸溜所です。蒸溜所は京急線日ノ出町駅に隣接する大岡川沿いの高架下に位置しています。筆者が訪れたのは夏の土曜日の午後でしたが、到着してみると、そこには典型的な横浜下町の住宅街といった雰囲気がありました。また、小さな駅のそばの静かな川沿いは桜並木でした。春にはきっと美しい桜が楽しめる場所なのでしょう。

横滨金酒蒸馏所的蒸馏器(横浜ジン蒸溜所の蒸留器)

お店はそれほど大きくなく、入ってすぐのところがバー席で、その左手に蒸留器が置かれている部屋がありました。前日に蒸溜したアブサンを乾燥させて換気していたので、ほのかに草本の甘い香りが漂ってきて、とても癒されました。お店には基本的に酒造家の峰尾真人さんが常駐しているので、平日に行けばジンの蒸溜工程を見学する機会があるかも知れません。

横浜ジン蒸溜所では、さまざまな草本植物や木本植物、花、果実などを使用し、色々な種類のジンや蒸溜酒を造っていますが、販売されているのは「BRONCO 20(ブロンコ 20)」というジンと「Misty Scandi Aquavit(ミスティ スカンディ アクアヴィット)」という草本系リキュールの2種類だけです。

「BRONCO 20」金汤力(「BRONCO 20(ブロンコ 20)」ジントニック)

2021年12月に正式発売された「BRONCO 20(ブロンコ 20)」は、横浜競馬場の最強馬をイメージした、ひときわパワフルなジンだと言われています。蒸溜所の親会社ブルワリーのビール原酒から蒸溜した高濃度アルコールに、ジュニパーベリー、ローズマリー、柑橘類の皮、グリーンペッパーなど20種類のボタニカルを染み込ませてから再度蒸溜しています。その結果、さまざまな天然の草本の香りだけでなく、ビール原酒を使用したことにより、すっきりとしたさわやかなホップ香とモルト香を併せ持つジンが誕生しました。市販されているほとんどのジンよりもエッセンシャルオイルの濃度が高いため、そのままで飲むと香りが強く、パワフルさがありながらも、非常にバランスの取れた豊かな風味が楽しめます。

このような重層的でしっかりとした味わいを持つジンは、ジントニックにすると驚くほど素晴らしい仕上がりになります。トニックウォーターのほろ苦いキニーネの風味がジンのグリーンペッパーの香りを引き立て、一口飲むと温度が3度くらい下がったように感じられます。続いて炭酸の泡とともにジュニパーベリーやローズマリーの香りが立ち上り、口の中でシュワシュワと広がります。グレープフルーツやザボンなどの爽やかな柑橘系の香りが一気に押し寄せ、豊かな草本の香りと混ざり合い、まるで香水を一口含んだような感じと言えるでしょう。

実は、一般向けにフルボトルで販売されている蒸溜酒以外に、一般向けには販売されておらず蒸溜所でしか飲むことができない最近蒸溜されたさまざまな試験酒もあります。試験ジンの一つに菊と陳皮を加えたものがあり、量は多くないものの、しっかりとした味わいで、まるで広東式の菊花茶を飲んでいるような味わい深さがあります。

拉面和「BRONCO 20」(ラーメンと「BRONCO 20(ブロンコ 20)」)

お酒を飲み、素晴らしいジンを1瓶買った後、蒸溜所の隣にミニフードコートがあることを発見しました。好きな食べ物を買って蒸溜所に持ち込むこともでき、食べた後の食器は返却するだけで済みます。フードコートには煮干し醤油ラーメンがあり、豚と鶏のチャーシューが柔らかくて美味しく、お酒を飲んだ後に食べるラーメンは最高でした!

横浜ジン蒸溜所
所在地:神奈川県横浜市中区日ノ出町1-103-1
営業時間:月曜日~金曜日:17:00~23:30/祝日:13:00~23:30
定休日:火曜日

関内にある静かなバー「Cocktail Bar Nemanja(カクテルバー・ネマニャ)」

関内にある静かなバー「Cocktail Bar Nemanja(カクテルバー・ネマニャ)」

鸡尾酒吧Cocktail Bar Nemanja的门口(カクテルバー・ネマニャの入口)

ラーメンを食べ終えた後は、すでに日が傾いていましたが、横浜ジン蒸溜所は住宅街の中にあり、周囲に娯楽施設もないため、筆者はのんびりと関内エリアへ向かいました。

北條智之さんのバーは関内エリアの相生町に位置しています。2013年10月にスタートしたバーの「Nemanja(ネマニャ)」は、北條さんと妻の久美子さんが営むバーで、店名の「Nemanja(ネマニャ)」は久美子さんが愛するセルビアのヴァイオリニスト、「Nemanja Radulović(ネマニャ・ラドゥロヴィチ)」の名前から取っています。

Misty莫吉托(ミスティ・モヒート)

北條さんと筆者は、渋谷で開催された日本全国から著名なバーテンダーが集まるカクテルイベントに参加したことがきっかけで知り合いました。その際に飲んだ古風とモダンが融合し、視覚、嗅覚、味覚すべてを刺激する北条さんのお酒は、やみつきになるほど美味しかったです。

北條さんのSNSアカウントで、草本系リキュール「Misty Scandi Aquavit(ミスティ スカンディ アクアヴィット)」とモヒートミントを使った「ミスティ・モヒート」を作っているのを見かけたので、一杯目はこれを注文してみました。皆さんがよく知っているモヒートとは違い、名前こそモヒートですが、横浜ジン蒸溜所のアブサン風味の蒸溜酒をベースに、炭酸水ではなく、北條さん監修の「Farr Brothers(ファーブラザーズ)」のトニックウォーターで作られています。ベースに含まれるアブサン、ミント、柑橘類の果皮油の風味が、草本とフローラルの香りが強い特製トニックウォーターと混ざり合い、さらに鼻に残るフレッシュなモヒートミントの荒々しい香りが、夏の夜の至福のひとときを演出してくれます。

北条先生的古典鸡尾酒(北條さんのクラシックカクテル)

心地よい雰囲気の中、北條さんとおしゃべりしながら、ネグローニとクラシックカクテルを追加注文しました。

ハイレベルなバーでは、クラシックなカクテルにも個性的なアレンジが加えられています。北條さんのネグローニは、独自のフレーバーを加えたレッドベルモットを使用しており、桂皮の風味が全体の味わいをリードし、蒸溜酒の口当たりを和らげ、カンパリの苦味を丸くしています。さらに印象的なのはクラシックカクテルで、伝統的な蒸溜酒、苦味、甘味の組み合わせにおいては、始めにビターズの量を調整して苦味と清涼感を高めています。次に甘味については、伝統的な角砂糖やシロップを使わず、チェリーリキュール、レッドベルモット、コニャックを使って、何層にも重なった甘さを作り出しています。飾りのミントの葉とオレンジピールの香りが相まって、筆者はこれが今まで味わった中で最高のクラシックカクテルだと感じました。

无酒精金酒“NEMA”(ノンアルコールジン「NEMA(ネマ)」)

実は北條さんは、さまざまなスパイスや草本植物、花などに造詣が深く、横浜ジン蒸溜所の各種蒸溜酒やFarr Brothers(ファーブラザーズ)のトニックウォーターの開発を監修しただけでなく、ノンアルコールジンシリーズ「NEMA(ネマ)」も生み出しています。前述のイベントで、北條さんが披露した4種類のカクテルのうちの1つが、アルコール度数完全ゼロのNEMA(ネマ)ジンを使ったノンアルコールカクテルでした。ジンの風味を持ちながらも完全にノンアルコールで、ロングでもショートでもアルコール入りのジンに引けを取りません。さまざまな理由でお酒が飲めない方でも、ジンの豊かな風味と香りをお楽しみいただけます。

鸡尾酒吧Cocktail Bar Nemanja的门口 2

彼のSNSアカウントを見ると、一貫して新しいものを蒸溜しようと研究し、ボタニカルをより深く分析・探求し続けていることが分かります。個人的には、これこそが追求心を持った本物のバーテンダーであり、彼の最新作を試しにバーに行ってみる価値もあると思っています!一緒にほろ酔い気分を楽しみましょう、乾杯!

Cocktail Bar Nemanja(カクテルバー・ネマニャ)
所在地:神奈川県横浜市中区相生町1丁目2−1 相生町ビル 6階
営業時間:月曜日~木曜日:17:00~24:00/金曜日:17:00~26:00/土曜日:17:00~24:00
定休日:日曜日・祝日